

【令和6年度最新版】工賃向上計画とは?作成義務・未作成減算から具体的な策定手順まで徹底解説
※この記事は2025年12月時点の情報で作成しています
「工賃向上にはどんな書類が必要?」「B型事業所の工賃向上計画って何?」
令和6年度から新設された報酬改定に基づき、より具体的な「工賃向上計画」の策定・提出が義務付けられました。
この報酬改定は加算や単価の引き上げにも大きく関わるため、事業所としては早い段階から方針を明確にすることが大切です。
この記事では、就労継続支援B型を運営するうえで必要な工賃向上計画の基礎知識、個別支援計画未作成減算との関係、令和6年度版の工賃向上計画シートの作成方法を詳しく解説します。
さらに、実際に工賃を上げるための5つの具体策も紹介します。
就労継続支援B型事業所における「工賃向上計画」とは?

就労継続支援B型(以下、B型事業所)における「工賃向上計画」とは、各事業所が工賃アップに向けた取り組みを計画的に進めるためのものです。
多くの自治体において、すべてのB型事業所を対象に計画の作成・推進が求められています。
工賃向上計画の主な目的は、B型事業所の利用者様が受け取る工賃の水準を引き上げることです。
工賃アップを通じて利用者様の経済的な自立を促し、社会参加の機会を増やすことを目指します。
工賃向上計画の期間は、3年間と定められています。令和6年度からの計画は、令和6年度から令和8年度までが対象です。
参照:福岡県「「工賃向上計画」を推進するための基本的な指針」p1
社労士 涌井好文のコメント:
一般企業に就労する労働者に賃金が支払われるように、就労継続支援B型事業所の利用者様にも、生産活動に対する工賃が支払われます。工賃が向上することで、より地域において自立した生活を営めるようになるだけでなく、就労に対するモチベーションアップの効果も期待できます。適切な工賃向上計画を策定できれば、その効果はより高くなるでしょう。当記事を通して工賃向上計画に対する知識を深めてください。
就労継続支援B型事業所で工賃向上計画が必要な理由

B型事業所における工賃は、生産活動により得られた収入から、材料費や外注費など必要な経費を差し引いた額を原資として支払います。
そのため、工賃の水準を引き上げるには、生産活動の内容や取引先、業務効率などを含めた見直しが必要です。
参照:厚生労働省「就労支援事業会計の運用ガイドライン」p20
工賃向上計画策定の背景と国の方針
工賃向上計画が制度として位置づけられた背景には、長年にわたりB型事業所の平均工賃が低水準にとどまってきたという課題があります。
令和5年度の調査によると、B型事業所の平均工賃月額は23,053円であり、就労継続支援A型(以下、A型事業所)の平均賃金と比べても、6万円以上もの差があるのが現状です。
参照:厚生労働省「令和5年度工賃(賃金)の実績について」p1
現在の国の基本方針では、都道府県が地域の実情を踏まえた工賃向上計画を策定し、各年度の目標工賃を設定することが義務付けられました。
これを受けて、各事業所も自らの事業内容に応じた工賃向上の取組を進めることが期待されています。
参照:福岡県「「工賃向上計画」を推進するための基本的な指針」p1
実際に、厚生労働省の調査(2018年)では、工賃向上において「就労支援の新たな取り組み」を行った事業所は、そうでない事業所に比べて平均工賃が上がったという結果が出ています。
就労支援の新たな取り組みの平均工賃月額を比較すると、金額自体は「なし」の事業所が高い傾向にあります。
しかし、前年度比では「なし」は-1.0%と微減しているのに対し、「あり」は4.6%上昇しており、取り組みを実施している事業所の方が伸び率が高いことが分かります。
就労支援の新たな取り組み | 支払い総工賃月額(平均) | 各月の実人数の累計(平均) | 平均工賃月額 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
平成29年 4月~9月 | 平成30年 4月~9月 | 平成29年 4月~9月 | 平成30年 4月~9月 | 平成29年 4月~9月 | 平成30年 4月~9月 | |
あり | 2,207,770 | 2,364,834 | 145 | 148 | 15,264 | 15,973 |
なし | 2,343,038 | 2,335,877 | 142 | 143 | 16,450 | 16,283 |
総計 | 2,289,537 | 2,347,330 | 143 | 145 | 15,977 | 16,158 |
参照:就労移行支援及び就労継続支援サービスの提供実態に関する調査 p43
社労士 涌井好文のコメント:
工賃は、利用者様が地域において自立した生活を送るために不可欠なものですが、その水準は高いものとはいえず、向上を図る必要性がありました。そのため、国は工賃向上への取り組みを進めており、その一環として事業所には工賃向上計画を策定し、自治体へ提出することが義務付けられています。高い工賃は、事業所を選ぶ際の重要な要素となるため、工賃向上計画は利用者様だけでなく、安定した事業所運営のための計画であるともいえるでしょう。
【重要】工賃向上計画の作成義務と報酬算定への影響

工賃向上計画は、B型事業所を中心に整備・運用が求められる計画です。
提出方法や提出期限、提出が必要な書類などは各自治体によって異なるため、所在地の自治体が公表する要領・様式・通知などを確認しましょう。
平均工賃月額に応じた基本報酬の仕組み
B型事業所が受け取る基本報酬は、平均工賃月額を含む複数の要素によって、単位数が設定される仕組みです。
基本的な考え方として、平均工賃月額が上がるほど、より高い基本報酬を算定できる可能性があります。
参照:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」p151
さらに、基本報酬とは別に、一定の要件を満たした場合に上乗せされる仕組みとして、加算が設けられています。代表例として「目標工賃達成加算」があります。
目標工賃達成加算【新設】 目標工賃達成加算の算定要件: 以下の条件を満たす事業所が、工賃向上計画に基づく工賃目標を達成した場合に算定できます。
(※)常勤換算法とは? 非常勤職員(パート・アルバイトなど)の労働時間を合計して、常勤職員(フルタイム職員)の労働時間で割り、「常勤職員何人分の働きになるか」を計算するルールです。 |
参照:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」p53-54
このように、B型事業所では、基本報酬や加算の算定に関しても工賃の実績や目標設定・達成状況が経営に影響します。
そのため、工賃向上計画を作って終わりにせず、実績を把握し、改善し続けることが、安定した運営につながるでしょう。
基本報酬だけでなく、加算を戦略的に取得し、安定した経営基盤を築きたい方に向けて、具体的な収益強化のポイントをまとめた資料(無料)をご用意しました。ぜひ本記事と併せてご活用ください。

指導員の配置要件や、さらに上乗せが可能な新設の目標工賃達成加算との組み合わせ方については「目標工賃達成指導員配置加算の算定要件とポイント解説|令和6年度報酬改定」にて詳しく紹介しています。
社労士 涌井好文のコメント:
工賃向上計画を策定しても、それが実際の工賃向上につながらなければ意味がありません。実効性のある計画とするためには、目標工賃達成指導員の配置が必要となるでしょう。目標工賃達成指導員を配置し、目標工賃達成指導員配置加算を算定したうえで、工賃向上計画の目標を達成した場合には、目標工賃達成加算が加算されます。なお、目標工賃達成指導員に特別な資格等は不要ですが、生活支援員などとの兼務は不可となっているため、注意してください。
個別支援計画未作成減算との違いと両立のポイント
工賃向上計画と個別支援計画は、目的と対象範囲が異なります。詳しくは以下の表をご覧ください。
計画の種類 | 対象範囲 | 目的 | 作成しなかった場合のリスク |
|---|---|---|---|
個別支援計画 | 利用者様一人ひとり | 個別のニーズ・目標達成のための支援方針や支援内容を整理する | 個別支援計画未作成減算が適用され、基本報酬の30%~50%が減算される |
工賃向上計画 | 事業所全体 | 事業所全体として、工賃アップに向けた取り組みを整理する |
|
個別支援計画未作成減算の注意点
個別支援計画は、書類があるかどうかだけでなく、アセスメントやケース担当者会議、本人同意、モニタリング、見直し、記録の整備など、作成・運用の一連のプロセスが運営指導で確認されます。
形式だけ整えても、根拠資料や記録がないと減算リスクが高まるため、期限管理と手順を守りましょう。
個別支援計画の作成プロセス不備により適用される減算については「個別支援計画未作成減算とは?障害福祉サービス事業者向け完全ガイド【原因・対策・予防法】」にて詳しく紹介しています。
減算期間や減算率(30%〜50%)のルール、実地指導で指摘されないための予防策をご確認ください。
工賃向上計画との連動(全体と個人のリンク)
2つの計画はバラバラに作るものではありません。工賃向上計画で決めた取り組みを個別支援計画の目標設定へと落とし込む必要があります。
また、モニタリングでは、「本人の変化が事業所全体の工賃目標や生産性にどう影響するか」という視点を持つと、改善の優先順位が明確になります。
リスク管理の視点
- 個別支援計画:不備があると減算の対象になる可能性があります。
- 工賃向上計画:未整備・提出不備などは運営指導で指摘を受ける場合があります。また、工賃向上計画の効果が出ない状態が続けば、平均工賃月額が伸び悩み、翌年度の区分に影響する可能性もあるでしょう。
リスクの現れ方は異なりますが、どちらも経営に影響を及ぼす重要な計画です。両方の計画を整備し、確実に運用しましょう。
参照:長野県「「工賃向上計画」(令和6年度~8年度) 記入要領」p1
計画の整備と運用は重要ですが、実地指導で指摘され、返還金を求められるリスクはこれだけではありません。
実は、一見順調に運営している事業所でも、知らず知らずのうちに「運営基準違反」や「減算対象」となるリスクを抱えているものです。
実地指導で指摘されやすい「見落としがちな6つのリスク」と、その予防策をまとめた資料(無料)をご用意しました。計画作成とあわせて、運営体制の総点検にお役立てください。

【令和6年度対応】B型事業所の工賃向上計画シート作成の流れ

令和6年度の報酬改定にともない、工賃向上計画の様式が改定されました。ここでは、新しい様式に対応するためのポイントを解説します。
令和6年度からの変更点と新設項目
令和6年度以降の工賃向上計画では、事業所の現状や課題を把握したうえで、目標工賃と、それを達成するための取り組みを計画的に示しましょう。
たとえば、課題の分析を踏まえて対策を検討したり、管理者が工程表などで取り組みのプロセスを示したりすることが求められています。
参照:福岡県「「工賃向上計画」を推進するための基本的な指針」p8-9
また、自治体によっては、責任者・スタッフの役割分担を図で示すことや、「だれが・何を・いつ・どのように実施するか」を明確にすることが求められています。
作成前の準備①現状分析の実施
計画策定の第一歩は、事業所の現状を正確に把握することです。こまめなスケジュール管理を行い、必要な項目を順にクリアしていきましょう。
1. 過去3年間の工賃実績データを整理する
支払工賃総額、利用者様の平均人数および延べ人数、平均月額工賃(必要に応じて時間額)を整理します。
集計方法は国指針の算定ルールや自治体の記入要領に沿って統一し、年度間比較ができる形にしましょう。
参照:福岡県「「工賃向上計画」を推進するための基本的な指針」p8
平均工賃月額の算出式や、令和6年度改定で変更された計算ルールについては「就労継続支援B型の工賃とは?平均工賃や計算方法、工賃ルールをわかりやすく解説」にて詳しく紹介しています。
除外できる利用者数の扱いや、工賃支払い時の規定についても確認できます。
2. 現在の作業内容を棚卸しする
現在行っている作業や商品について、次の観点で見える化します。
- 作業時間(どこに時間がかかっているか)
- 生産性(一定時間あたりの成果)
- 収益性(材料費・外注費などを含めた利益の出方)
- 請負単価や売価(価格設定の妥当性)
3. 収支のバランスを確認する
生産活動に関する「売上」「経費(材料費・外注費など)」「人件費」の関係を整理し、利益率を押し下げている要因を探ります。施策の優先順位を決める材料になります。
4. 強み・弱みを分析する
強み・弱みを明確にすると、施策が「思いつき」ではなく「根拠のある改善」になります。
- 強みの例:安定受注がある、高単価の作業がある、品質評価が高い、販路が複数ある
- 弱みの例:特定作業への依存が大きい、生産性が低い、品質のばらつきがある、価格交渉力が弱い
現状分析によって「稼働率が不安定」「単価が伸び悩んでいる」といった弱みが見えたなら、根本的な経営改革が必要です。
B型事業所の激戦区でも稼働率を維持し、報酬単価を最大化するための具体的な手法をまとめた資料(無料)をご用意しました。分析結果をもとに、工賃向上とあわせて事業所全体の収益性を高めるためのガイドとしてご活用ください。

作成前の準備②目標工賃の設定
工賃向上計画の目標設定は、計画の成否を分ける重要なプロセスです。前年度を意識しつつも、実現可能性の高い数値に落とし込みましょう。
3年間の段階的目標の立て方(初年度・2年度・3年度)
- 初年度:効率化や低コストではじめられる販路拡大などを中心に、堅実な目標を設定しましょう。
- 2年度:設備投資や職員体制の強化など、中期的な施策の成果が出ることを見越して、初年度よりも高い成長率の目標を設定します。
- 3年度:計画の集大成として、最終的な目標値を設定しましょう。
目標工賃は単なる願望ではなく「作業効率が10%向上する」「新規販路で月5万円の売上が増える」など、具体的な根拠に基づいていることを計画書内で明確に示しましょう。
現状分析と適切な目標設定は、工賃向上を成功させるための土台となります。
さらに踏み込んで、事業所全体の収益構造をどのように改善し、利益率を高めるべきか知りたい方は、こちらの収益強化ガイド(無料)もダウンロードして確認してみてください。

社労士 涌井好文のコメント:
利用者様にとって、工賃は高ければ高いほど良く、他よりも高水準の工賃を設定する事業所は、それだけで事業所を選ぶ際の有力な候補になり得ます。しかし、実際の工賃を青天井のように上げることは不可能です。計画策定において、実現不可能な目標工賃を設定するケースも見られますが、計画は絵に描いた餅であってはならず、目標とする工賃も実現可能なラインに落とし込むことが必要です。
工賃向上計画シートの必須記載項目
工賃向上計画シートの必須記載事項は多くあります。ここでは、その記入例や注意点を紹介します。
必須記載項目 | 記入例と注意点 |
|---|---|
基本情報 | 事業所名、所在地、定員数、職員配置状況などを正確に記載します。 |
工賃実績 | 過去3年間の平均工賃月額を記載します。 |
目標工賃額 | 計画期間(3年間)の目標工賃月額を記載します。 |
具体的な工賃向上の取組内容 | 目標達成のために行う取り組みを、具体的に記載します。 例:新規販路の開拓、既存工程の改善、商品開発、価格改定、品質管理の強化など |
生産活動内容 | 現在の主たる作業(請負、自主製品など)、取り扱い品目、取引先、単価・価格帯などを記載します。 |
設備投資(様式にある場合) | 設備導入(例:包装機、ミシン、ラベラーなど)の費用概算、導入時期、期待できる効果を記載します。 |
職員体制強化(様式にある場合) | 職員の配置・採用・研修計画などは、実施時期と狙いを合わせて記載します。 |
推進体制・スケジュール(様式にある場合) | 責任者や役割分担、進捗確認の方法などを記載します。 |
参照:山口県公式ホームページ「調査票(工賃向上計画シート)の記入要領」p1-3
参照:福岡県「「工賃向上計画」を推進するための基本的な指針」p8-10
工賃向上施策の具体的な書き方
計画を実行に移すには、抽象的な表現を避け、第三者が読んでも行動が想像できる内容を記載しましょう。
- 抽象的ではなく具体的な施策の記載方法
・悪い記載例:「作業効率の向上を図る。」
・良い記載例:「令和6年度第1四半期までに、A作業の標準時間を計測し、治具を2種類導入することで、生産性を15%向上させる。」
- 数値目標と結びつける書き方(例)
目標工賃を月3,000円上げる場合、内訳を分解して説明できると、根拠が明確になります。
作業効率化によるコスト改善:+1,500円分
新規販路開拓による売上増:+1,500円分
さらに、施策ごとに次をセットで書くと、実行性が高まります。
- 担当者(責任の所在)
- 実施時期(いつまでに)
- 実施内容(何をするか)
- 効果見込み(どの程度の改善か)
良い記載例と悪い記載例の比較
項目 | 悪い記載例 | 良い記載例 |
|---|---|---|
販路開拓 | 営業を強化して売上を上げる | 地域企業向けにDMを毎月100件送付し、新規の軽作業請負契約を3件獲得する(売上月平均5万円増を見込む)。 |
作業効率 | 利用者様に頑張ってもらう | ラベル貼り作業に自動ラベラー(50万円)を導入し、作業時間を20%短縮する(導入時期:令和6年9月)。 |
このように、簡潔かつ具体的に数値で示すのがポイントです。無理のないスケジュールを立てましょう。
工賃向上計画の提出手続きと期限【都道府県別情報】

工賃向上計画の策定後は、指定権者(都道府県または政令指定都市など)が指定する窓口に提出する必要があります。
ただし、提出先・提出期限・提出方法は自治体ごとに異なるため、管轄自治体の公式資料を確認しましょう。
提出先・提出期限・提出方法
提出先 | 指定権者(事業所が所在する都道府県または政令指定都市・中核市)の障がい福祉担当課 |
|---|---|
提出期限 | 多くの自治体は「5月31日」を提出期限に設定しています。 ※注意:新規指定や加算の新規算定を行う場合、原則として、加算を算定する前月の15日までに加算届を提出する必要があります。 |
提出方法 | 郵送・持参に加えて、電子申請(メール提出や専用システムへのアップロード)を推奨・原則化する自治体が増えています。 |
参照:福岡県「「工賃向上計画」(令和6年度以降)の作成について(依頼)」p1
参照:厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.1」p2
参照:広島県「広島県事業所工賃向上計画・工賃実績報告書(令和6年度~令和8年度)記載要領」p4
提出に必要な書類一覧
工賃向上計画の提出時に求められる書類は、以下のとおりです。
- 工賃向上計画書
- 都道府県が求める添付書類
具体的な様式・記載内容・添付書類の有無は自治体によって異なります。他県で使った様式をそのまま流用することは避け、必ず最新の自治体指定様式を使用してください。
提出後の義務と実績報告
作成した工賃向上計画や前年度の実績は、ホームページや施設内の掲示板などの公表が求められます。
自治体によっては、工賃総額や平均工賃月額などの実績について、年度ごとに指定権者へ報告書を提出する運用が行われています。
参照:広島県「広島県事業所工賃向上計画・工賃実績報告書(令和6年度~令和8年度)記載要領」p4
また、計画を実行するなかで目標達成が難しくなった場合や、新たな事業に取り組む場合など、計画に変更が生じる場合は、自治体に相談し、指示に従いましょう。
実践!工賃を実際に向上させる5つの具体的方法

工賃向上のための具体的な施策は、「生産性の向上」「売上増加」「能力開発」の3つの視点から検討できます。ここでは、それぞれの視点から、特に工賃アップにつながる考え方を5つ紹介します。
社労士 涌井好文のコメント:
工賃を向上させるには、生産性を向上させることが重要です。作業手順や配置を見直すことで、それまでよりも短時間で効率よく作業を進めることが可能となる場合も多くなっています。特に作業において無駄な待ち時間が発生していることは多く、作業の自動化と併せて重要な改善項目となります。とはいえ、利用者様にはそれぞれ特性があり、強引な変更は反発を招くだけでなく、かえって効率を落とすことにもなりかねません。利用者様の目線に立って、適材適所となる改善を図りましょう。
方法①作業工程の見直しと効率化
はじめに取り組みたいのが、日々行っている作業工程の見直しです。
同じ作業内容であっても、工程や手順によって作業時間や負担に差が生じていることは少なくありません。
作業を分解し、「時間がかかっている工程」「負担が大きい工程」「人によってばらつきが出やすい工程」を洗い出すことで、工賃向上の妨げとなっている要因が見えてきます。具体的には、以下のような工夫が考えられます。
- 作業手順をマニュアル化し、誰が担当しても一定の品質と作業時間を保てるようにする
- 作業動線を整理し、移動や待ち時間といった無駄を減らす
- 治具や補助具を活用し、身体的・精神的な負担を軽減する
まずは改善しやすい工程から一つずつ着手していくことが大切です。
方法② 設備投資による生産性向上
作業効率の向上策として、設備導入を検討するケースもあります。
たとえば、手作業で行っていた工程を機械化することで、作業時間の短縮や品質の安定が期待できる場合があります。
ただし、設備投資には初期費用が発生するため、導入にあたっては慎重な検討が必要です。導入前には、以下の点を整理しておくと判断しやすくなります。
- 設備導入によって作業時間がどの程度短縮される見込みか
- 生産量や品質の改善がどの程度期待できるか
- 投資額をどのくらいの期間で回収できるか
また、設備投資を検討する際には、国の補助金制度が活用できる場合もあります。
「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」などは、中小企業などを対象とした制度であり、事業所の法人形態や事業内容が要件に合致すれば申請できる可能性があります。
最新の公募要領を確認したうえで、活用するかどうかを決めましょう。
参照:中小企業庁「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金について(Ver.1.1)」p3
参照:中小企業庁「「ものづくり・商業・サービス補助金」で雇用の多くを占める中小企業の生産性向上、持続的な賃上げに向けて、新製品・サービスの開発や生産プロセス等の省力化に必要な設備投資等を支援します!」p1
社労士 涌井好文のコメント:
生産性の向上には、機械設備導入による自動化が極めて有効な手段となります。しかし、設備の導入には少なくないコストを要するため、そのコストを上回るリターンが見込めない場合には、導入すべきではありません。生産性の向上は、工賃向上のためであり、工賃の原資となる事業所の収益が下がるようでは導入の意味がないでしょう。ただし、補助金や助成金を利用することで、コストの負担を減らせる可能性もあります。国だけでなく、自治体独自の補助金も存在するため、社労士等の専門家への相談も検討してください。
設備投資による生産性の向上は、利用者様の工賃アップだけでなく、事業所の基本報酬単価(サービス費Ⅰなど)の引き上げにも直結する重要な戦略です。
投資効果を最大化し、激戦区でも利用者様に選ばれ続ける「高収益な事業所」を作るにはどうすればよいのか。
多くの成功事業所が実践している「稼働率」と「報酬単価」を最大化するための秘訣をまとめた資料(無料)をご用意しました。
設備導入の検討とあわせて、経営改革のバイブルとしてご活用ください。

方法③ 販路開拓と売上増加策
工賃の原資は、事業所の売上から生まれます。
そのため、生産性向上とあわせて、売上を確保・拡大する取り組みも欠かせません。代表的な施策としては、次のようなものが考えられます。
既存顧客との取引拡大
現在取引のある企業や団体に対し、別の作業内容や新たな商品・サービスを提案することで、取引量や受注単価の向上を目指します。
新規顧客の開拓
電話やメール、DMなどの営業活動に加え、商工会議所や地域の支援機関、異業種交流会などを活用することで、新たな取引先との接点を増やします。
ECサイトの活用
自主製品を扱っている場合は、インターネット通販を活用することで、地域に限らず広い範囲に販路を広げることができます。
地域イベントやマルシェへの出店
道の駅や地域イベントへの出店は、直接販売による売上確保に加え、事業所や製品の認知向上にもつながります。
官公庁の優先調達制度の活用
障害者優先調達推進法に基づき、国や地方自治体では障がい福祉サービス事業所からの物品・役務調達を推進しています。
各自治体が定める調達方針や登録制度を確認し、活用を検討してみましょう。
参照:佐賀県「令和6年度佐賀県における障害者就労施設等からの物品等の調達推進方針」p1
売上の拡大は、利用者様へ支払う工賃の原資を増やすために不可欠な要素です。
具体的な営業手法や、利益を最大化するための収益戦略については、以下の資料(無料)で詳しく解説しています。生産活動の収益性を高め、より持続可能な事業運営を目指しましょう。

方法④ 利用者様の能力開発と適材適所
工賃向上においては、利用者様一人ひとりの力を引き出す視点が欠かせません。
能力や適性を踏まえた作業配置や段階的なスキルアップは、生産性の向上と働きがいの両立につながります。たとえば、以下の取り組みが考えられます。
- 作業技術やパソコン操作、ビジネスマナーなどの基礎的な研修を行う
- 得意分野や希望をアセスメントし、適した作業に配置する
- 作業の難易度を段階的に設定し、成長を実感できる仕組みを作る
定期的な面談やフィードバックを通じて、努力や成果を適切に伝えることも重要です。
方法⑤ 職員の支援スキル向上
職員の育成や支援体制の強化も重要な視点です。具体的には、以下のような方法が考えられます。
- 生産管理や品質管理、労務管理に関する知識の習得
- 営業やマーケティングの基礎を学ぶ研修の実施
- 外部の専門家(税理士、社会保険労務士など)の助言を受ける
また、職員同士で成功事例や工夫を共有し、支援の進め方を標準化することも、事業所全体の底上げにつながります。
職員のスキル向上や支援の標準化は、事業所を黒字化させるための重要な要素の一つです。
さらに、創業期から最短で事業を軌道に乗せるために、多くの成功事業所が実践している「6つの鉄則」をまとめた資料(無料)をご用意しました。組織力を高め、工賃向上と経営の安定を両立させるための参考書としてご確認ください。

工賃向上計画に関するよくある質問

工賃向上計画については、「提出しなかったらどうなるのか」「目標を達成できなかった場合にペナルティはあるのか」など、制度の運用面で不安や疑問を抱く経営者の方もいるでしょう。
令和6年度以降は、報酬改定や運営指導の考え方がより明確になり、工賃向上計画を作って終わりにしない姿勢が重視されています。
ここからは、工賃向上計画についてよくある質問をQ&A形式で整理し、わかりやすく解説します。
Q. 工賃向上計画を提出しないとどうなりますか?
A.工賃向上計画が未作成、または未提出の場合、運営指導で指摘を受ける可能性があります。
基本報酬の報酬区分によっては、工賃向上計画の作成が算定要件の一部となっており、計画が整備されていない場合は算定できません。
このように、工賃向上計画を提出しなければ、報酬算定に影響が生じるリスクがあります。
参照:豊橋市「障害福祉サービス事業者等に対する指導監査について」p7
参照:大阪市「「事業所工賃向上計画シート」の作成・提出について」p1
なお、運営指導当日の流れや、計画書以外に準備すべき書類のチェックリストについては「実地指導とは?監査との違いや当日の流れ・必要書類・事前対策について解説【障がい福祉サービス】」にて詳しく紹介しています。
指摘されやすいポイントを事前に把握し、万全の対策を講じておきましょう。
Q. 計画通りに工賃が向上しなかった場合、ペナルティはありますか?
A.工賃向上計画は、あくまで将来に向けた目標と取り組みの方針を示す計画です。目標を達成できなかったからといって、ペナルティが適用される制度ではありません。
ただし、各年度ごとに達成状況を評価し、必要に応じて計画の見直しが求められる場合があります。
参照:広島県「広島県事業所工賃向上計画・工賃実績報告書(令和6年度~令和8年度)記載要領」p3
Q. 工賃向上計画の途中変更は可能ですか?
A.事業環境の変化や利用者様の状況、新たな生産活動の開始などにより、当初の計画どおりの実施が難しくなった場合には、計画内容の見直しを行いましょう。
工賃向上計画は、状況に応じて適切に見直しを行う必要があります。計画を変更した場合の取り扱いは自治体ごとに異なるため、指定権者へご確認ください。
Q. 就労継続支援A型事業所も工賃向上計画が必要ですか?
A.原則として、工賃向上計画はB型事業所を対象とした制度です。
A型事業所は利用者様と雇用契約を結び、「賃金」を支払う仕組みであるため、一般的には工賃向上計画の対象にはなりません。
参照:岐阜県「「工賃向上計画」を推進するための基本的な指針」p3
ただしA型事業所には、賃金向上計画を策定し専門員を配置することで算定できる「賃金向上達成指導員配置加算の算定要件・単位数・申請方法のポイントを解説【就労継続支援A型】」があります。
B型の工賃向上計画とは異なるA型独自の要件やメリットをご確認ください。
なお、就労継続支援A型においては「生産活動収支」や「スコア評価」といった独自の厳しい基準への対応が経営の鍵を握ります。
3期連続の収支不足による減算を回避し、制度改定に負けず安定して高得点を獲得するために。
最新の報酬改定に対応したA型事業所専用の「スコアアップ戦略ガイド」(無料)をご用意しました。A型運営のリスク対策と収益強化の手引書としてお役立てください。

Q. 工賃向上計画と事業計画の違いは何ですか?
A.工賃向上計画は、主にB型事業所において、利用者様に支払う工賃の水準をどのように向上させていくかを整理するための計画です。
工賃の目標額や、生産活動の改善方法、単価向上の工夫、前年度実績の振り返りなど、工賃アップに向けた具体的な取り組みを示します。
一方で、障がい福祉サービスにおける「事業計画」とは、指定申請などで求められる事業実施計画書や収支計画を含む、運営全般の計画を指す場合があります。
参照:熊本県「指定障害福祉サービス事業者等の申請・届出等の手引き」p9
参照:熊本県「指定障害福祉サービス事業者等の申請・届出等の手引き」p47
記事のまとめ:工賃向上計画で事業を改善しよう

工賃向上計画は、行政への提出を目的とした形式的な書類ではなく、利用者様の工賃や働く意欲、生きがいに直結する重要な計画です。同時に、B型事業所の経営改善やサービスの質を向上させるためのツールでもあります。
計画の策定を通じて、事業所の収支構造や生産活動の課題を明確にし、売り上げ拡大と作業効率化に向けた方向性を示しましょう。
工賃額の引き上げは利用者様の意欲を高め、将来的な自立支援にもつながります。
令和6年度版の様式では、目標達成に向けた戦略がより重視されているので、個別支援計画とも連動させ、無理のないスケジュールで進めていきましょう。
記録・請求ソフト「knowbe」なら、日々の支援記録が実績データと連動するため、工賃の算出や加算に必要なデータをまとめて管理でき、事務作業の負担を大幅に軽減できます。
事務作業の時間を短縮し、生まれた時間を工賃向上に向けた営業活動や支援に集中しましょう。

社労士 涌井好文のコメント:
工賃の向上は、利用者様はもちろん、事業所にとってもメリットのあるものです。実現可能な目標工賃を設定した工賃向上計画を策定し、利用者様の就労意欲を向上させるとともに事業所の安定運営につなげましょう。実現可能な目標工賃の設定には、記録された日々のデータが必要となります。事務負担を減らし、集計ミスなどの発生を防ぐためにも、障害福祉に特化したシステムの導入を検討してください。




